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しをして、「元気な姿を見て安心しました。タクシーを待たせてありますので」とお帰りになりました。こんなまで息子のことを思っていてくださる方がいらしたのです。これからも、恩師と親子は切れない糸でつながっていくことでしょう。
一ヵ月入院と、一ヵ月の家での静養の後、息子は再び職場に復帰し、体力も付き徐々に回復していきました。
二十五歳の春、「僕、結婚します」と突然言われて驚きました。こんなに早く独立する日がくるとは思ってもいませんでした。お嫁さんになる方は聴覚障害者です。「僕には健聴者の人は難しい。この人だったら一緒に頑張って行けます」と力強い言葉でした。
平成二年十月十三日結婚。準備はほとんど友人らによって整っていました。幼いころからのできごとが走馬灯のように思い巡らされて、うれしさと安心そして寂しさの複雑な思いで、とのどなく涙が出てきました。二十五年問、何回か崩れ落ちそうな崖っ淵に立った親子でしたが、これからは二人で幸せな道を歩むことをただ祈るだけでした。たくさんの方々に祝福される中、口話と手話で力強くお礼のことばを述べる息子の姿。あらためて大きく成長した息子を見ることができました。
息子は平成六年九月、七年間働いていた職場を退職して旭川市に移住しました。会社が大きいので働いている人も多く、機械の台数も多く設備も整っているようです、それだけに仕事の量も増えたようですが、本人は満足して頑張っています。親から少し遠くなりましたが、息子も結婚して四年、二人で仲むつましく家庭を守っています。

 

 

 

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